弘前大学

ヘリウム同位体比から地下のマグマの位置を知る -地下水の溶存ガスを用いた新たな火山の監視?観測手法の構築

2025.05.14

プレスリリース内容

発表のポイント

  • 火山周辺で発生する低周波地震は、地下のマグマやそこから分離した流体によって引き起こされている可能性が指摘されている。
  • その震源域の地下水に含まれるヘリウム同位体比は、低周波地震の分布や深度と良い相関があることから、マグマや流体の場所を知るための地球化学的な指標となり得る。
  • これまで実施している地震観測や地殻変動観測に、地下水の観測を加えることによって、地球物理の目と地球化学の目による新たな火山のモニタリング手法を提案する。

本件の概要

弘前大学大学院理工学研究科の 梅田 浩司 教授、前田 拓人 教授、東京大学先端科学技術研究センターの角野 浩史 教授らの研究グループは、東日本に分布する31火山について、火山下で発生している低周波地震(図1)と震源域の地下水の溶存ガスのヘリウム同位体比(図2)を調べました。その結果、低周波地震の発生している深さとヘリウム同位体比には明瞭な相関があることがわかりました(図3)

一般に、低周波地震はマグマやそこから分離した流体が地殻内を移動する際に発生する波であると考えられています。このマグマや流体に含まれているヘリウム(マントルヘリウム)は同位体比(3He/4He比)が高いため、これが地下水に多く混入すると地下水のヘリウム同位体比が高くなります。

一方で、マグマ等が地下深部にあるとマントルヘリウムの混入量が小さくなるため、地下水のヘリウム同位体比も低くなると考えれば、両者の相関を説明することができます。このように、地下水のヘリウム同位体比は地下のマグマや流体の位置を知るための地球化学的な指標になる可能性があります。日本では50の活火山について、噴火の前兆を捉えて噴火警報を適確に発表するため、地震や地殻変動といった地球物理学的データの常時観測?監視を行っています。

このような地球物理の目に加えて、ヘリウム同位体比といった地球化学の目を使うことで、噴火の前兆を見逃さない新たな火山のモニタリングに繋がることが期待されます。本研究成果は、2025年5月11日(日本時間)に国際科学誌「Geoscience Letters」に掲載されました。

(図1)東日本の火山周辺で発生している31火山の低周波地震の(震源の)深さの分布

(図2)東日本の火山周辺で発生している31火山の震源域の地下水のヘリウム同位体比

(図3)東日本の火山周辺で発生している低周波地震の深さ(平均値)と地下水のヘリウム同位体比の関係

用語説明

  • ※ヘリウム同位体比(3He/4He比)
    ヘリウムには質量数3と4の安定同位体が存在し、主に3Heは地球形成時に固体地球内部に取り込まれた始原的な成分、4Heはウランやトリウムの放射壊変で生成したものです。マントルヘリウムの3He/4He比は、地殻や大気に含まれるヘリウムのそれよりも高いため、地下水中の3He/4He比が高い場合には、マグマやそこから分離した流体に含まれるマントルヘリウムが混入していると解釈することができます。

論文情報

掲載誌:Geoscience Letters
論文タイトル:Relationship between helium isotopes and focal depths of low-frequency earthquake, Northeastern Japan
著者:Yukino Yamazaki, Arisa Narita, Koji Umeda, Hirochika Sumino, Takuto Maeda, Tadashi Amano
DOI:10.1186/s40562-025-00394-6
URL:https://geoscienceletters.springeropen.com/

詳細

プレスリリース本文は こちら?(881KB)

プレスリリースに関するお問合せ先

弘前大学大学院理工学研究科
教授 梅田 浩司
TEL:0172-39-3952
E-mail:umedahirosaki-u.ac.j