殺虫剤と水田の水温上昇がトンボ類に与える影響を解明 温暖化に起因する水温上昇は殺虫剤による生態リスクを高める可能性
2023.11.30
研究
プレスリリース内容
本学研究グループ
農学生命科香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司生物学科 橋本 洸哉 助教(農学生命科香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司ホームページ「教員紹介」へ)
本件の概要
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士後期課程1年 石若 直人、農香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司博士研究員 平岩 将良、准教授 早坂 大亮らの研究グループは、国立環境研究所(茨城県つくば市)室長 角谷 拓、弘前大学農学生命科香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司(青森県弘前市)助教 橋本 洸哉、シドニー大学名誉准教授 フランシスコ?サンチェス=バヨらと共同で、水田の水温上昇により、生息するトンボ類の幼虫が受ける殺虫剤の影響が強くなり、個体数が大幅に減少することを世界で初めて解明しました。本研究成果は、今後温暖化が進行するなかで、生物多様性に配慮した農業生産のあり方を検討する際に重要な知見となるものです。本件に関する論文が、2023(令和5)年11月18日(土)に、環境科学における国際的な雑誌である Environmental Pollution(エンバイロメンタル ポリューション)にオンライン掲載されました。
本件のポイント
- 水田を模した人工的な生態系を用いて、水温が上昇した場合のトンボ類幼虫に対する殺虫剤の影響を調査
- 水温が上昇した場合、殺虫剤の効果が強まり大幅にトンボ類幼虫の個体数が減少することを解明
- 本研究成果は、今後温暖化が進行するなかで、生物多様性に配慮した農業生産のありかたを検討する際に役立つ
本件の背景
水田は、日本の里山を代表する、生物多様性の高い生態系ですが、農地である特性上、作物の収量維持を目的とした農薬の散布が行われており、生物多様性損失の要因となっています。田植え時に使用される農薬のなかでも、特にネオニコチノイド系やフィプロニルといった殺虫剤は、トンボ類の幼虫に対して強い毒性を示し、近年、深刻な個体数の減少が問題視されています。トンボ類の幼虫は、水田の生態系において捕食者として重要な役割を果たしており、トンボ類の幼虫に与えるストレスの影響評価は、生態系の安定性や農業の持続可能性を検討する上で欠かせません。
水田に生息するトンボ類が受けるストレスとして、殺虫剤のほかに地球温暖化による水温の上昇が挙げられます。先行研究において、農薬などの化学物質が生物に与える影響は、高温下ほど強くなる可能性が指摘されており、水田生態系に生息するトンボ類が受けるストレスは、今後さらに強くなることが予想されています。
しかし、温度変化による殺虫剤の影響を検証した先行研究は、化学物質のリスクを評価する際の標準試験生物や、特定の生物種を1種だけ用いて、室内で実施されたものが大部分で、複数の種が存在する実際の野外環境を想定して行われたものはほとんどありません。
本件の内容
研究グループは、水田環境を模した実験的な生態系を野外に設計し、今世紀末までに予想される最悪の温暖化シナリオを想定して水温を常時4℃程度上昇させた場合に、殺虫剤フィプロニルがトンボ類幼虫に与える影響がどのように変化するかを検証しました。田植え後の6月後半から収穫期である10月後半にかけて、2週に1回程度の頻度で合計9回のモニタリングを行った結果、水温が高い状態で殺虫剤を使用した場合、殺虫剤のみを使用した場合以上に、トンボ類の幼虫の個体数が大幅に減少しました。これにより、トンボ類の幼虫に対する農薬の影響は、水温上昇にともなって一層強まる可能性を明らかにしました。
論文掲載
- 掲載誌:Environmental Pollution(インパクトファクター:8.9@2022)
- 論文名:Can warming accelerate the decline of Odonata species in experimental paddies due to insecticide fipronil exposure?(殺虫剤フィプロニルの曝露にともなう人工水田内のトンボ類の減少は温暖化によって加速するか?)
- 石若直人1*、橋本洸哉2,3、平岩将良4、Francisco Sánchez-Bayo5、角谷 拓2、早坂大亮 4※(*筆頭著者 ※責任著者)
- 所属:1 近畿大学大学院農学研究科、2 国立環境研究所、3 弘前大学農学生命科香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司、4 近畿大学農香港赌场/老挝赌场$西安碟雅商贸有限公司、5 シドニー大学
- 論文掲載:https://doi.org/10.1016/j.envpol.2023.122831
- DOI:10.1016/j.envpol.2023.122831
プレスリリース
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